人材関連コラム
「定額残業代(固定残業代・みなし残業代)」という制度があります。
これは、毎月一定時間の残業が発生することを前提に、その時間分の残業代を固定給で 支払うのですが、世間ではこの制度が長時間残業の温床となっているケースが見られます。
今回は、実際に起こった事例をもとに、定額残業代制度の抱える問題点を ご紹介していきます。
2011年、新入社員の居酒屋店長が過重労働による心疾患で死亡するという痛ましい事件が ありました。
この社員の月給19万4500円のうち7万1300円が「役割給」の名目で支払われる 80時間分の定額残業代でした。
過労死ラインとされる毎月80時間の残業を前提とした賃金設計と、月平均112時間と 認定された長時間残業を放置していたことで、裁判では会社だけではなく代表者と 人事担当役員らの会社法上の責任、不法行為責任も認められることとなりました。
通常、会社が社員を雇う時は所定労働時間分の給料額を示し、残業代は残業時間に応じて 別途計算して支払うのが原則となっています。
ところが、定額残業代を導入する会社では社員が一定時間まで残業しようがしまいが 毎月の支払額は変わりません。ましてや「一定時間」(みなし残業時間)を過労死ラインの 80~100時間に設定し、長時間労働を放置するのは非常にキケンということになります。
前記のような会社では、固定された給与の総額を単純に基本給と残業代に分けて、 「給与総額の中に残業代も含まれる」と社員に説明するケースがあります。 すると、例えば正社員とアルバイトとの時間給が逆転してしまうことがあります。
ここでもひとつ事例をご紹介しますが、小売りチェーン店でアルバイト勤務をしていた Aさんは時給950円で雇用されましたが、1年ほどまじめに勤務したことが認められて 時間給は1100円に上がりました。
残業も積極的にこなしてアルバイトながら月に200時間も働くことがあり、その月は おおよそ30時間分の割増残業代が支払われ、月の総支給額が23万円ほどになることも ありました。
そんなAさんを会社側も高く評価し、月給24万円の正社員への転換を打診しました。 月給には50時間分の残業代が含まれていましたが、Aさんは色々と考えた結果、 会社の打診を受け入れることにしました。
そして初の給料日。
給与明細には「基本給17万5000円、固定残業代6万5000円」と記されており、 アルバイトのときよりも残業をいとわず働いたのですが、それでも給料は毎月固定で 24万円です。明らかに毎月の労働時間が長くなっているのに、給料が増えていないと 感じたAさん。
給与明細から時間給を算出してみると、アルバイトのときよりも下がっていることが わかったのです。
もちろん、正社員になったことによるメリットもありました。
賞与が支給されますし、給料額が安定し生活設計がしやすくもなりました。ただ、やはり 「アルバイトより時間給が低い正社員ってどうなんだ?」と、どうも判然としない思いを 抱えるようになり、次第に仕事にも興味が薄れてやる気もなくなってしまったそうです。
そして、こうしたAさんの変化に、会社側も困惑するばかりでした。
今回のコラムにおけるポイントは、以下の2つ。
いかがでしたか?
誤解の無いように申し上げておきますが、「定額残業代」の制度は違法では名ありませんし、 それ自体が悪いわけではありません。
社員側は、残業をしてもしなくても一定額を得られますし、業務を効率化して早く仕事を 切り上げようという意識も働くでしょう。
ただ、業種や職種によっては、この制度が長時間労働の温床となったり、社員のやる気を そぐリスクがあったりすることも、常々考えておく必要がありそうです。