人材関連コラム
医療介護・保育福祉分野における人材関係に携わっていて感じるのは、「事業者様(法人・施設)が行っている人材育成には大きな落とし穴があるかもしれない」ということです
特に専門性が高い分野における人材育成というと、とかく専門技術の習得、能力開発(専門スキル)に偏りがちではないでしょうか?
本当に、人材育成=能力開発なのでしょうか?
例えば、とある介護施設における朝の一場面で。
介護職のAさんは、利用者様の横に寄り添い、手を握ったり、背中に手を添える等のスキンシップをはかり、目線の高さを利用者様に合わせ、やさしい笑顔で、 「●●さん、昨晩はゆっくり寝られましたか?」「朝ごはんおいしかったですか?」と声掛けをしてから介助に入ります。
一方、同じ介護職のBさんは無表情。
口にこそ出しませんが、「何やってんのよ。早くしてよ。私は忙しいんだから。」という気持ちで介助をしています。
AさんとBさんは同じ介助の仕事をしており、AさんとBさんの介護のスキルは全く同じです。
しかし、利用者様の受けているサービスの質や満足度は全く異なるのではないでしょうか。
介護事業においては、人が人に直接介助を提供している為、『働く人の質=サービスの質』となります。
他の介護事業所との差別化を考えると、何をやるか、どんなサービスを提供するかももちろん大切ですが、実はそのことよりはるかに大切なのは、そのサービスを 「誰が」やるかが重要になってくるのです。
人間力とは、人間性を具体的な行動(表情、態度、所作、言葉、行動)で表す力で、心そのもの、あるいはモラルと言われるものです。
人間性(心、モラル)は、直接見ることはできません。人というのは、「形」を通じて相手の人間性を判断しているからです。
どんなにすばらしい人間性があっても、それを「形」に表すことができなかったら人間性はないのと同じことではないでしょうか?
職員各々が持っているやさしい心、他人を思いやる心、他人を愛する心を正しく、わかりやすく、具体的な「形」に表現して伝えることは、現場における専門的なスキル以上に重要なスキルです。
とはいえ、
「介護スキルは育成出来ても、人間性や人間力はその人の素質の問題なのでは」
という発想のもと、人間力UPに注力しないケースが多いのも事実です。
「育成するものではない」と考えていたり、そもそもどうやって育成して良いのかわからない為、それに取り組んでいる事業者様はあまりいないというのが現状のようです。
医療介護・保育福祉分野の事業では「サービス提供」という文言が使用されます。
しかし、近年では特にサービス業の代表であるホテルなどの接客接遇において「ホスピタリティ」という言葉を耳にする機会が増えました。
ところで、サービスとホスピタリティの語源を調べてみると、
サービスは古代ラテン語で「奴隷(servus)」、
ホスピタリティは古代ラテン語で「客人の保護(hospes)」とのこと。
特に介護の分野では、「やってあげている」「やってもらっている」といった主従の関係を払拭する意味においても2000年の介護保険制度施行により「契約」に基づいたサービス提供という形に変わりました。
それから約20年近く経過し、さらに深刻な高齢化と介護現場で発生している悲惨な事件や事故を考えると、今必要とされているのは「奴隷」か「客人の保護」か…推して知るべしといったところでしょうか。
今回のコラムにおけるポイント
いかがでしたか?
人間力と専門的技術、どちらも介護の現場に必要なのは間違いありません。
しかしそれでもなお声を大にして申し上げたいのは、ホスピタリティへの第一歩は、 職員の「人間力」養成であるということです。
・論理的思考力や創造力
・コミュニケーション能力
・上記二つを発揮するための意欲、忍耐力
などの養成は、各事業者(主)様が積極的に動かなくては実現には至らないのでは ないでしょうか。